急に思い出したこと。
今では誰も信じてはくれないかもしれないけど、あたしは小学生の頃虚弱な子供だった。
毎週一回は病院に通い注射を打っていたのが放課後の記憶。
一年の寒い時期は特に寝込むことが多く、月の内三分の一は学校を休んでラジオの音だけと過ごす、そんな日々を過ごしていた。
10日も休んでしまった挙句に登校する学校は、あえてあたしを歓迎するでもなく、拒絶するだけでもなく何事もないように空いている席にあたしを導いた。
しかし、しばらく顔を出さない教室は知らない間に、秘密を抱えているものだ。
休みがちのあたしは、体が弱く背も小さい為いじめてしまえば洒落にならない相手であり、だからといってどこかのグループに歓迎されている訳でもなった。
そして、しばらく振りに現れた傍観者として、見えないベールのこちらから、フワフワと外側にいるあたしは、ただ教室を覗いるだけだった。
その日も久しぶりに学校に出席した。
梅雨明け間近の、校庭の土の色も、空の雲も、そしてまとわり付く空気まで濃いような、そんな週明けだった。
ランドセルを四角いだけの教室の後ろのロッカーに預け、席につく。
そしてはじめに目に飛び込んだのは、近所のスーパーの生花売り場で良く見かける、ボリュームがそこそこあって、それでいてリーズナブルな価格で手に入る花束だった。
廊下側から3列目の後ろから2番目の机の上の花瓶に活けられていた。
けれどクラスメートの顔 所属しているようで 見渡しても誰がいなくなったのかさっぱり検討がつかない。
『この花どうしたの?』
斜め後ろに友達と消しゴムで遊んでいた男の子がついでのように答えてくれた。
『転校生がいたんだけど、ハイキングに行って死んじゃったんだって』
『そうそう』
一緒に遊んでいた良く漫画を書いてくれた男の子が消しゴムの裏を覗きながらあいづちをうつ。
『お前がまた休んでる間、転校生きたんだけど、2日しか学校にこなかったんだ』
転校生が来たのは本当らしい。
ただ、それが、あたしをからかっているのか、急に学校に来なくなった転校生を面白がって噂になっいたのかわからない。
あたしが学校にまた通い出した時はその子がいなくなってもう一週間もすぎた頃で、クラスメートの関心はすでに転校生にはなかった。
休んでいた間の出来事は根掘り葉掘り聞かない。
元気な子からしたら、どんな休みでも、病欠とズル休みの垣根はなく、ただ(学校を休めていいなぁ)という対象なだけだ。
勝手に休んで、やっと出て来たら、あれこれ聞きまくる主役を奪うよおうな子供は目の上のたんこぶでもある。
『ふーん』
その話はそれっきりになった。
昨日最寄りの駅でホームに降りたった時に何故かふと思った。
こうやって咳き込む胸の苦しさがあたしをあの頃に連れて行ったのか。
思い出すこと。
あの頃同じ教室にいたみんなは思い出したりするのだろうか。
思い出しても名前も知らない。
でも思い出したい。
嫌がられてもみんなに聞いておけばよかった。
その子がどんな子で、ほんとはどうしていなくなっちゃたっのか。
こうやって何も知らない子の事を思い出してる。
ただ転校生がいた。
その誰も座った所を見た事の無い席と、あたしが休んでいた間誰も座る事が無かった空席を、何故か今、思い出している。